[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
に包まれ、薄緑を手に抱いた長い黒髪の女が、『を持つ者を探して』『貴方を救いたいの』と何度も訴えてくる。悲壮感と慈しみすら感じさせるその声色は、恐怖よりも安心感があった。
京へ潜伏してからは多忙と満足に眠れなかったせいで、そのことは今まですっかり忘れてしまっていたが。
だが、御伽草子のようなこの事を口にするのはられる。変わった男だと思われなくなかった。
「ええと……。瘦面treatment もしや、と思ったんだ。そうしたら、当たっていた。まさかあのような所を歩いているとは思いもしなかったが」
──薄緑を持つ者と出逢えたのは良えが、到底僕を助けてくれよるには見えん。やはり夢は夢ってことじゃろうか。
「そう、なんですね。……って、ああー!!」
突然桜花は声を上げた。その脳裏には、少し前に交わした沖田の言葉が浮かぶ。
『これで何処か茶屋にでも入ってて下さい。……直ぐに戻りますから!あまり遠くには行かないで下さいねッ』
吉田はびくりと肩を跳ねさせると、
「ど、どねえした」
思わずお国言葉で問い掛けた。
「戻らなきゃ……。あの、人を待たせていて、」
「そうか……。それは僕が突然連れ回したのが悪い。共に行って謝ろう」
吉田はそう言うと、刀を腰へ差すと歩きだそうとする。
だが、グイと着物の裾が後ろへ引かれた。
「だ、大丈夫です。走っていけばきっと間に合います。会わない方が良いというか、その、」
恐らく吉田が追い掛けられたのは、新撰組だろう。そこと引き合せるのは間違いなく不味い。
「何故?」
怪訝そうな表情で小首を傾げた吉田に対して、何と説明をすれば良いのかと桜花は頭を抱えた。
丁寧に説明をしている時間はない。かといって、一言二言で伝わる内容でもない。
「と……とにかく駄目なんです。次回きちんと説明しますから。これがあれば、また会えますよね」
桜花は自身の左胸に手を当てた。
その様子から、ただならぬ理由があるのだと吉田は察する。
「分かった。一人で戻れる?きっとそこの角を曲がれば、五条大橋が見えるから。東へ向かえば良い」
「はい。では、また」
挨拶もそこそこに、桜花は駆け出していった。その後ろ姿を、吉田は楽しそうに眺める。
「また……か。気張って生き残らんといかんのう」
今夜はよく眠れそうだと口角を上げ、いつの間にか青に橙が混じった空を見上げた。 桜花は吉田に言われた通りに大通りへ出ると、清水寺を目指してひたすらに駆けた。
この時ばかりは駆け足が速いことに感謝せざるを得ない。
だが、
──あれ、何だかいつもよりも身体が軽い。重い刀なんて提げているのに、気にならない。
違和感に小首を傾げた。身体が軽く、地面を蹴る足の力が強くなったように感じる。気のせいかと思いつつ、周りからの好奇の目も気にせずに道を進んだ。
やがて産寧坂あたりに差し掛かる。荒い呼吸を整えながら、二寧坂へ向かって歩いていると、前からキョロキョロと辺りを見渡している侍の姿を見付けた。
「お、沖田先生ッ」
その声に反応した沖田と目が合う。ホッとしたような、呆れたような表情を浮かべていた。
「どちらへ行っていたのです。戻ってみたら、どの茶屋にも居ないものだから探しましたよ」
「茶屋……には行ったのですが、諸事情で出ざるを得なくなって……。それで、あの、」
桜花は口ごもる。走るのに必死で、言い訳を考えていなかったのだ。
その時、沖田がフッと口元を緩める。そして手を伸ばした。手には枯葉が摘まれている。
「分かった、昼寝していたんでしょう?貴方の背中やら髪やらに沢山付いてますよ。……ふふっ、これ気付かずに此処まで歩いてきたのですか?」
その指摘に、桜花は後ろ髪へ手をやった。カサリという音と共に、地面には幾枚もの葉が落ちる。
「え、ええっ」
堪らずに桜花はみるみる顔を赤らめた。道理でジロジロと見られる訳だと肩を落とす。