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三津の内面を深く探ろうと思った矢先,
「お三津ちゃん!お見舞いに来たえ!」
けたたましい足音と,よく通る甲高い声が響く。
『この声……。』瘦面treatment
嫌な予感がして,久坂は部屋の戸に視線を注ぐ。
「お三津ちゃん大丈夫!?」
『やっぱり…。』
部屋に飛び込んで来たのは幾松。
入るや否や三津に覆い被さって頭をギュッと抱き締めた。
「お松さん痛い…。」
『幾松さんとも知り合いかよ…。あのおっさんどう言うつもりだ…。』
久坂の頭の中には鼻の下を伸ばす桂の顔が浮かんだ。
「あら嫌やわ,先生が居てるのに…。先生,お三津ちゃんの具合はどうでしょう?」
白々しく恥じらった後,幾松は心配で仕方ないんだと言わんばかりの表情で久坂に詰め寄った。
『流石桂さん…ぬかりないな……。』
「今から診察しようと思っていたのですが。」
聴診器をちらつかせ,席を外すように促した。
「えっ,それはあの…いつもの先生やないとそのぉ…。」
三津があからさまに狼狽えて拒絶を示す。「あら,いつもの先生ちゃうの?でも大丈夫やでお三津ちゃん。変な事せんように見張っててあげるし。」
にっこり笑顔の幾松に久坂の顔はひきつった。
「いつものように心音や呼吸を確認するだけですから。」
怖い事は何一つしないと子供に言い聞かすように言ってみるけど,三津はイヤイヤと首を振る。
「でしたら前から当てて聴くのは止しましょう。背中だけにしますから。」
久坂も気遣ってはみるが三津は口をへの字に曲げた。
「……出来たら前の方がいいんですけど。」
「いや,逆でしょ?」
久坂と幾松の声が揃った。
「とっ,とにかく元気!」
三津はぐっと拳を握りしめるけど,二人が納得する訳もない。
「お三津さん,ちゃんと診察しないと私が怒られてしまうんですよ…。」
久坂は困ったなと眉を垂れ下げた。
そう,怒られる。桂と吉田に怒られる。
“何しに行って来たの?役立たず。”と吉田に罵られるのが目に見える。
「そっか…先生が怒られてまうんや…。」
三津はしゅんとなって背中を丸めた。
「背中だけでいい?」
「えぇ構いませんよ。」
三津は意を決して寝間着の袷に手をかけた。
観念して背中を向けた三津に久坂はほっとした。
腰紐を緩め,するりと肩から寝間着を滑らせた。
「これは……。」
再度久坂の瞳孔が大きく見開かれた。
聴診器を手にしたまま,その目は背中の傷に釘付けになった。
「びっくりしました?」
顔だけで振り返えって,三津は困ったように笑った。
「すみません…だから先生じゃないと……。」
久坂は俯いてしまった。
幾松は三津と目を合わせ,小さく頷いたのを確認してから背中側に回り込んだ。
「やっ…!!」
目を背けたくなる程の大きな傷に,幾松は両手で口を塞いだ。
「これじゃあお嫁には行けませんよねー…。」
三津は鼻声で明るく笑った。
それから聴診器を当ててもらう事なく寝間着を羽織った。
「そんな事ないっ!!お三津ちゃんはお嫁に行ける,そんな悲観的になったらアカン!!」
幾松は三津をぎゅうっと抱き締めた。
「先生,もういいでしょ?ここからは女同士で話させてもらわれへん?」
幾松が横目でじーっと久坂を見る。
『重要な事は聞いてやる。だから出て行け…って事?参ったね,こりゃ…。』三津に聞きたい事が増えた。だけど踏み込める範囲も限られている。
『多分幾松さんも聞き出さなきゃならない事は俺と同じはず。』
ならば面識のある幾松になら三津も素直に語ると考えた。
「分かりました。お薬置いておきます,ちゃんと飲んで下さいね。」
久坂は幾松に全てを託す事にした。
『必要な情報,いくらふっかけてくるんだろうなぁ…。』
そんな事を考えながら久坂は部屋から立ち去った。
二人になって一旦静寂に支配される。
「…背中の事はまたゆっくり聞く。
ねぇ,何があったん?帰って来たって聞いたけど,まさか逃げ帰って来たやなんて…。」
に包まれ、薄緑を手に抱いた長い黒髪の女が、『を持つ者を探して』『貴方を救いたいの』と何度も訴えてくる。悲壮感と慈しみすら感じさせるその声色は、恐怖よりも安心感があった。
京へ潜伏してからは多忙と満足に眠れなかったせいで、そのことは今まですっかり忘れてしまっていたが。
だが、御伽草子のようなこの事を口にするのはられる。変わった男だと思われなくなかった。
「ええと……。瘦面treatment もしや、と思ったんだ。そうしたら、当たっていた。まさかあのような所を歩いているとは思いもしなかったが」
──薄緑を持つ者と出逢えたのは良えが、到底僕を助けてくれよるには見えん。やはり夢は夢ってことじゃろうか。
「そう、なんですね。……って、ああー!!」
突然桜花は声を上げた。その脳裏には、少し前に交わした沖田の言葉が浮かぶ。
『これで何処か茶屋にでも入ってて下さい。……直ぐに戻りますから!あまり遠くには行かないで下さいねッ』
吉田はびくりと肩を跳ねさせると、
「ど、どねえした」
思わずお国言葉で問い掛けた。
「戻らなきゃ……。あの、人を待たせていて、」
「そうか……。それは僕が突然連れ回したのが悪い。共に行って謝ろう」
吉田はそう言うと、刀を腰へ差すと歩きだそうとする。
だが、グイと着物の裾が後ろへ引かれた。
「だ、大丈夫です。走っていけばきっと間に合います。会わない方が良いというか、その、」
恐らく吉田が追い掛けられたのは、新撰組だろう。そこと引き合せるのは間違いなく不味い。
「何故?」
怪訝そうな表情で小首を傾げた吉田に対して、何と説明をすれば良いのかと桜花は頭を抱えた。
丁寧に説明をしている時間はない。かといって、一言二言で伝わる内容でもない。
「と……とにかく駄目なんです。次回きちんと説明しますから。これがあれば、また会えますよね」
桜花は自身の左胸に手を当てた。
その様子から、ただならぬ理由があるのだと吉田は察する。
「分かった。一人で戻れる?きっとそこの角を曲がれば、五条大橋が見えるから。東へ向かえば良い」
「はい。では、また」
挨拶もそこそこに、桜花は駆け出していった。その後ろ姿を、吉田は楽しそうに眺める。
「また……か。気張って生き残らんといかんのう」
今夜はよく眠れそうだと口角を上げ、いつの間にか青に橙が混じった空を見上げた。 桜花は吉田に言われた通りに大通りへ出ると、清水寺を目指してひたすらに駆けた。
この時ばかりは駆け足が速いことに感謝せざるを得ない。
だが、
──あれ、何だかいつもよりも身体が軽い。重い刀なんて提げているのに、気にならない。
違和感に小首を傾げた。身体が軽く、地面を蹴る足の力が強くなったように感じる。気のせいかと思いつつ、周りからの好奇の目も気にせずに道を進んだ。
やがて産寧坂あたりに差し掛かる。荒い呼吸を整えながら、二寧坂へ向かって歩いていると、前からキョロキョロと辺りを見渡している侍の姿を見付けた。
「お、沖田先生ッ」
その声に反応した沖田と目が合う。ホッとしたような、呆れたような表情を浮かべていた。
「どちらへ行っていたのです。戻ってみたら、どの茶屋にも居ないものだから探しましたよ」
「茶屋……には行ったのですが、諸事情で出ざるを得なくなって……。それで、あの、」
桜花は口ごもる。走るのに必死で、言い訳を考えていなかったのだ。
その時、沖田がフッと口元を緩める。そして手を伸ばした。手には枯葉が摘まれている。
「分かった、昼寝していたんでしょう?貴方の背中やら髪やらに沢山付いてますよ。……ふふっ、これ気付かずに此処まで歩いてきたのですか?」
その指摘に、桜花は後ろ髪へ手をやった。カサリという音と共に、地面には幾枚もの葉が落ちる。
「え、ええっ」
堪らずに桜花はみるみる顔を赤らめた。道理でジロジロと見られる訳だと肩を落とす。